「セイボウ」という虫がいることはご存知でしょうか。カタカナからはどんな虫かは想像しづらいですが、漢字で書くと「青蜂」と書きます。その名のとおり青いハチで、強い金属光沢をもち、日本のハチ類でも特に美しいと言われています。日本にはおよそ40種類のセイボウ類が生息しており、そのうち小笠原諸島には3種が生息し、2種が固有種、1種が外来種と考えられています。
今回は、小笠原の固有種であり、環境省の絶滅危惧種(絶滅危惧IA類)に指定されている「オガサワラセイボウ」を紹介したいと思います。
オガサワラセイボウ(メス)(Mita et al., 2015)
オガサワラセイボウ(オス)(Mita et al., 2015)
※スケールは1mm
写真のとおり、小型ながら緑青色の金属光沢をもち、非常に美しい種類であることが分かります。詳しい生態については不明ですが、寄生性の種類であり、母バチが他のカリバチ類やハナバチ類へ卵を産み付けると考えられています。また、寄生される昆虫も小笠原固有種の可能性があり、「小笠原の生き物同士の繋がり合い」を考える上でもたいへん興味深い種類だと思います。
さて、ここからはブログのタイトルにある、約35年ぶりの再発見について触れていきます。
オガサワラセイボウは、1975年に父島の三日月山でメスが採集され、1984年に新種として発表されました。しかし、その後の発見例はなく、何らかの要因で絶滅した可能性が高いのでは?と考えられていました。幾つかの文献によると、「グリーンアノールによる捕食」や「外来樹の繁茂」が理由であると指摘されており、母バチがカリバチ類やハナバチ類へ卵を産み付ける時にアノールに食べられたり、外来樹の繁茂により宿主のカリバチ類やハナバチ類が本来の住処を失って減少し、それに伴ってオガサワラセイボウも姿を消したとも考えられます。
このように絶滅が危惧されていたオガサワラセイボウですが、2010年に兄島で実施された昆虫調査によって再発見されました。1975年の最初の発見以降、実に35年ぶりであり、絶滅したと考えられていたものが兄島に残っていたことが分かった瞬間でもありました。更に、2013年には今まで未知であったオスの個体も発見されています。
オガサワラセイボウが、父島との最短距離が僅か500mの兄島に残っていることの意味はとても大きく、父島で住みやすい環境が整えば、兄島瀬戸を飛び越えてやってくる…そんなこともあるかもしれません。
この記事は、三田敏治博士(九州大学)らによって発表された以下の論文内容および写真を引用し、執筆いたしました。
Mita, T., Watanabe, K. & Kishimoto, T. (2015). Occurrence of Chrysis boninensis Tsuneki (Hymenoptera: Chrysididae) in Anijima Island, the Ogasawara Islands, with description of the male. Japanese Journal of Systematic Entomology, 21: 191-194
永野