忍法・影分身の術 其の二

過去の記事(http://ogasawara.jwrc.or.jp/?eid=85)でメスのみでクローン繁殖するヤモリ、オガサワラヤモリについて説明しましたが、今回はその第二弾となります。

 

オガサワラヤモリは全個体がメスで各々が自身のコピーを産んでいくため、理論上すべての個体が同一のクローンとなるはずです。

 

しかし!実は小笠原諸島には2種類のクローンが分布しているのです!!

見比べてみると明らかに背中の模様が違いますよね。

この記事では便宜上写真左をクローン1、右をクローン2と呼ぶことにします。

 

ヤモリ類はカメレオンと同様に体色が背景に併せて変化するのですが、斑紋の位置・大きさは変化しません。

クローン1は胴体背面に一対の斑紋が連続しているのに対し、クローン2では頭部と首の付け根および尾の付け根背面に黒い斑紋があるのが確認できます。これら斑紋の配置の違いからクローンを識別することができます(野外での識別は難しいですが…)。

 

また、親子判定にも利用されているアロザイム解析やマイクロサテライト解析と呼ばれる方法でDNAをクローン間で比較してみると、種内変異の域は出ませんが違いがみられることがわかっています(Yamashiro et al., 2000; Murakami et al., 2015)。それに加え、染色体数も異なっていることもいくつかの研究論文で報告されています(Yamashiro et al., 2000)。

 

さらに!クローン間で性格も異なっていることがわかっています!

端的に言えば、クローン1は餌場などを巡って激しく争う好戦的なタイプであり、

一方でクローン2は夜間も隠れている時間が長く、争いを好まない臆病なタイプであることがわかっています。

まとめると小笠原諸島に生息するオガサワラヤモリには2種類のクローンがいて、これらは形態的にも遺伝的にも生態的にも異なると考えられています。

これはもはや別の生き物といっても過言ではないでしょう。

 

また、小笠原と同じ海洋島として知られる大東諸島にはなんと17種類ものクローンが分布しています(Yamashiro et al., 2000)。これらについてもまた別の機会に紹介したいと思います。

 

さて、単為生殖をはじめとする無性的に増える生物の欠点として、遺伝的に単一になってしまうことが挙げられます。遺伝的に単一だと、当然病原菌などへの耐性も皆同じになるわけですから、環境の変化や病気の流行によって絶滅しやすいと考えられ、長期的にみると有性生殖種に比べて不利だと言われています。だからこそ多くの動物には性別なるものが存在するわけです。

 

しかし、オガサワラヤモリに様々な種類のクローンがいることを考えると、遺伝的多様性を高める何らかの手段を持っているように見えます。

だとしたら、「本当に生物にオスは必要なの?」と私も男ですが疑問に思ってしまいます。

 

ヤモリ一つとってみてもこんなにも不思議で神秘的。

やはり生き物の世界は底が見えませんね。

担当:村上

 

YAMASHIRO, S., TODA, M., AND OTA, H. 2000. Clonal composition of the parthenogenetic gecko, Lepidodactylus lugubris, at the northernmost extremity of its range. Zoological Science 17: 1013–1020.

 

MURAKAMI, Y., SUGAWARA, H., TAKAHASHI, H., AND HAYASHI, F. 2015. Population genetic structure and distribution patterns of sexual and asexual gecko species in the Ogasawara Islands. Ecological Research 30: 471–478



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