甲の薬は乙の毒

危険生物が少ない小笠原諸島ですが、キョウチクトウ科植物やコハマジンチョウ、一部のハチ類、ムカデ類、クモ類、外来種のオオヒキガエルなど、毒をもつ生物もいくつか知られています。その中でも特に危険で、被害件数の多い生物が、このカミキリモドキです!

ランプムシやデンキムシとも呼ばれていたりしますよね。小笠原では夏の夜に家の電灯や自動販売機などに集まっているのをよく見かけます。

カミキリモドキ科Oedemeridaeは、その名のとおりカミキリムシによく似ていますが、分類学上は互いに大きく異なります。小笠原諸島にはオガサワラハイイロカミキリモドキとマツムラカミキリモドキの2種が分布しており、前者は小笠原固有亜種になります。体長はいずれも10〜15mm程度で、花粉食で花に集まります。

 

この一見ただの小さな昆虫が、体内にカンタリジンという血管刺激物質を含む揮発性の猛毒を持っていて、かつてはこの成分が暗殺に使われたこともあるんだとか!実際、カミキリモドキが身体に止まった際に知らずに潰したり刺激したりすると、毒液を分泌します。毒に触れたまま放っておくと、数時間で火傷に似た痛みと水ぶくれができ、やがてこれがカサブタになり、かゆみを伴います。完全な治癒までにはなんと2週間程度もかかるのです(症状には個人差があります)!

小笠原諸島の多くの昆虫たちが、グリーンアノールをはじめとする外来種によって数を減らしている中、カミキリモドキたちはこのカンタリジンのおかげで生き残ってきたのかもしれませんね。

しかしながら、カミキリモドキは自身の防御のためだけにこの毒を使うわけではなく、恋人へのプレゼントとしても利用しているのです!カミキリモドキは交尾の際に、オスからメスへカンタリジンが精子とともに渡され、メスは受け取った毒を自分の卵を守るための防御物質として利用しているのです。なかなかキザですよね!このように求愛や交尾の際にオスがメスに贈り物をすることを「婚姻贈呈」といいます。

さらに!他の生物種がカンタリジンを利用しているとの報告もあります!

ヌカカ科のヒラタヌカカ属は、主にカミキリモドキの血液を餌とすることが知られています。そのため、カミキリモドキが出すカンタリジンの匂いを辿って餌の居場所を特定していると考えられています。実際に、小笠原諸島に分布するAtrichopogon snyderiというヌカカがカンタリジンに誘引されることが報告されています。

そのほかにも、いくつかの科の一部の種がカンタリジンに誘引されることが知られており、誘引される理由も以下のように様々です。

  • アリモドキ科・アカハネムシ科:防御物質獲得のため
  • アリ科・テントウムシダマシ科・コガネムシ科:利用する餌の匂いがカンタリジンと似ているため
  • トゲアカザトウムシ科:カンタリジン(もしくはその類似物質)を集合フェロモンとして利用しているため

 

いかがでしたでしょうか。

毒を嫌がるものもいれば、逆に利用するものもいるとは面白いですよね。

嫌われがちなものでも、色々な角度から見てみると、知らなかった素敵な一面が見えてくるかもしれません。

 

村上

 

参考文献

  • Borkent A, Rocha-Filho LC (2006) First record of female adult Atrichopogon Kieffer (Diptera: Ceratopogonidae) biting in the Neotropical Regeon. Proceedings of the Entomological Society of Washington, 108: 998–1001.
  • Hashimoto K, Hayashi F (2014) Cantharidin world in nature: a concealed arthropod assemblage with interactions via the terpenoid cantharidin. Entomological Science, 17: 388–395.
  • 橋本晃生(2015)カンタリジンを誘引剤として用いた特異な昆虫類の採集法.昆虫と自然,50(1): 12–14.
  • Hashimoto K, Hayashi F (2016) Cantharidin world on islands: species diversity of canthariphilous arthropods in the Izu–Ogasawara Arc. Entomological Science, 19: 432–439.
  • Hashimoto K, Sugawara H, Hayashi F (2016) Sclerotised spines in the female bursa associated with male’s spermatophore production in cantharidin-producing false blister beetles. Journal of Insect Physiology, 93: 18–27.
  • Horiuchi K, Hashimoto K, Hayashi F (2018) Cantharidin world in air: spatiotemporal distributions of flying canthariphilous insects in the forest interior. Entomological Science, 21: 306–314.


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