「意外なところにエイリアンプレデター」

先月末、先生、後輩との研究結果がプレスリリースされました。
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2017/10/press20170929-02.html
 

ハゴロモの仲間をとらえたリクヒモムシ。撮影したころは俊敏にジャンプする虫をとらえるなんて、偶然のことと思っていたのですが。

 

いくつかのニュースサイトなどでもとりあげていただいていたので、なんとなく話題をみかけた方もいらっしゃるでしょうか。
(動画付きのニュース http://www.asahi.com/articles/ASK9Y3WJ0K9YULBJ009.html?iref=com_alist_8_04

解説はプレスリリースが詳しいので、ぜひそちらもご覧ください。
とにかく、このニョロニョロがかなり俊敏なハンターで、カメレオンのように頭の先から口をびゅっと伸ばして相手を絡めとり、森の土を育むダンゴムシやハマトビムシなどを根こそぎ食べていたのです。

しかし、
ヒモムシって、なに?

例えば、ヒモっぽい生物がそれぞれ何の仲間か考えてみますと、
ヘビは脊椎動物門(魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類)、
ムカデは節足動物門(昆虫、クモ、サソリ、エビ、ダイオウグソクムシなど)、
ミミズは環形動物門(ミミズ、ゴカイ、ヒルなど)、

ナメクジは軟体動物門(カタツムリ、ウミウシ、イカ、タコ、ホタテなど)、
プラナリアは扁形動物門(ナミウズムシ、コウガイビル、ニューギニアヤリガタリクウズムシなど)
です。

では、ヒモムシは?
「紐型動物門」。例えば、ヒモムシとか、リクヒモムシとか・・・

全くなじみがないですよね。多くは海に生息するヒモ状の生物で、私もヒモムシについてはこの種類以外知りません。なかなかふだんは目に触れることがないマイナーな生きもののようです。
ただし、この種類は小笠原にたくさんいるようです。母島では数百匹が道路上に散らばっていて、何か麺類をこぼしたのか、と勘違いされたこともあります。

 

小笠原のリクヒモムシ。目の上にマロの眉毛があるような、意外とキュートな顔をしています。

 

どれもヒモっぽくてあまり特徴がないので、分類が困難。これまで同種だと思われていた海外のリクヒモムシは節足動物を食べないと研究発表されていたのに、小笠原のオガサワラリクヒモムシはたべてしまいます。実は、オガサワラリクヒモムシと名の付くGeonemertes pelaensis は小笠原にはいなく、小笠原のリクヒモムシはオガサワラリクヒモムシではない、他人の空似のようなのです。

 

小さなガをとらえたリクヒモムシ。狩りの場は林床だけじゃない。

 

この研究の最初のきっかけは平成20年度から数年間実施されていた母島南部におけるオオヒキガエル対策(環境省事業)でした。カエルを捕獲して柵をつくり繁殖を阻止するとともに、胃内容物分析や現地の土壌動物を調べていたところ、モリワラジムシが突然不在となる境界があることがわかりました。当初はオオヒキガエルの影響の可能性を検討していたのですが、分布境界が坂の途中、平地など、カエルの障壁になるような環境ではなかったため、結論付けることはできませんでした。
一方、同じ地域で進めていた陸産貝類調査(環境省事業)によってツヤオオズアリによる陸貝の捕食影響が判明し、この影響について内田さんが詳細なデータを取り、発表するに至りました(Uchida etal., 2016)。そしてこの研究の過程で他の土壌動物についても広い分野に渡って影響を調査していたところ、節足動物の不在の分布とヒモムシの在分布が重なるように見えたため、今回の研究がはじまりました。

白いミミズのような生きものが、飛翔する昆虫を狩るなど、思いもよりませんでした。広い視野をもって、先入観を持ちすぎず、様々な可能性を考慮しながら、調査をしていく重要性を再認識しました。
また、別の生物の保全のための調査がきっかけとなり、参加していた若い学生たちが自らの研究テーマを見つけ、学生らしいパワフルな調査結果で発表することが、次の自然環境保全につながるというサイクルは、これからも大切にしていきたいと感じました。

さて、これからどうするか。
小笠原では陸貝をおびやかすプラナリアの対策が見つからず苦しんでいますが、さらに分類や生態が未知な分類群の対策には、もうひとふんばり必要そうです。


リクヒモムシの節足動物への影響に関する論文
Shinobe, S., Uchida, S., Mori, H., Okochi, I., & Chiba, S. 2017. Declining soil Crustacea in a World Heritage Site caused by land nemertean. Scientific Reports 7(1) 12400

ツヤオオズアリの陸産貝類への影響に関する論文
Uchida S., Mori H., Kojima T., Hayama K., Sakairi Y., and Chiba S. (2016) Effects of an invasive ant on land snails in the Ogasawara Islands. Conservation Biology 30:1330-1337
 

森 英章



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