旅するトップモデル

猛暑が続く小笠原ですが、河川に目を向けると涼しげな鳥たちを見つけることができます。

今回は、その中でも特に優雅でユニークな鳥、セイタカシギを紹介したいと思います。

 

唐突ですが、仮に鳥類界で各部門の第一位を決める世界大会を開催したなら、

サイズ部門ではダチョウ、

飛行速度部門ではハヤブサやハリオアマツバメ、

飛行距離部門ではヨーロッパアマツバメ、

潜水部門ではコウテイペンギンが優勝候補筆頭でしょうか。

そして、セイタカシギもまたある部門で世界第一位の座に君臨しています。

 

セイタカシギ Himantopus himantopus(小笠原諸島 父島にて)

 

そう、彼らは世界で最も相対的に脚の長い鳥、まさに鳥類界のトップモデルなのです!

 

英名は和名以上に名が体を表しており、Stilt(竹馬)と呼ばれています。

まさに竹馬と呼ぶにふさわしい脚の長さですよね!

 

この長い脚はダチョウのように速く走ることに特化したものではなく、餌を採る際にその真価が発揮されます。

セイタカシギは主に湿地や水田にて、魚類や甲殻類、水生昆虫等を捕食します。

その際、長い脚をもつ彼らは競合する他の湿地性鳥類よりも、水深が深い場所までアクセスできるというアドバンテージがあるのです。

 

小笠原諸島 父島にて

 

海洋島である小笠原にも分布しているだけあって、セイタカシギの世界的な生息域は広く、私自身オーストラリア北部や台湾、中国(杭州)で確認したことがあります。その他にもアメリカ南部から南アメリカ、アフリカ、ヨーロッパまで、多くの地域に不連続的に分布しているようです。

 

日本国内でも広く確認されており、小笠原では主に汽水域で見られますが、一般的には休耕田を含めた淡水域を好むとされています。

かつては珍鳥とされていましたが、近年では愛知県のほか、東京都や千葉県などで繁殖しており、東京湾周辺でも周年生息しているようです。

 

秋田県のとある湿地にて

 

それにしても、この圧倒的スタイルに加え、白色の体、光沢のある黒い羽、ピンクの長い脚、黒く長い嘴と、色彩・形状も含め本当に芸術点が高いですよね。

その美しさと優雅な佇まいから「水辺の貴婦人」と呼ばれているそうです。

 

そんな彼らが絶海の孤島にまで飛んできてくれるのですから、彼らのサービス精神には頭が下がる思いです。

 

担当:村上


オガサワライラガ

連日の猛暑の中、涼しげな緑色の蛾の幼虫、オガサワライラガ(固有種)を見つけました。

成虫は茶色い地味な姿をしていますが、幼虫は何とも可愛らしいですね。

 

幼虫は様々な樹木、時には地上部でも見られ、頻繁に移動しているようです。

食草はあまり調べられていないようですが、ムニンシャシャンボの葉上で確認したことがあります。食み痕のようなものも確認できたのでこれも食草なのかもしれませんね。

キンショクダモは食草の1

頭部の様子

 

オガサワライラガ(Belippa boninensis

 

担当:小山田


父島の海を見に行こう

せっかくの小笠原、泳がなければ勿体ない!
新型コロナウイルス対策で来島後2週間の自粛がやっと明けた私は、衝動に駆られ先輩におススメされたとある海岸へと足を運びました。すこし奥まった場所なのもあってか人影も少なく、心ゆくまで観察できそう。早速海へと入っていった私を迎えたのは、こんなお魚でした。
 
写真 1 カンモンハタ(Epinephelus merra

どっしりと岩陰に鎮座し、こちらをしげしげと見つめているようです。個人的にハタの仲間は、目を合わすや否やサッと物陰へ隠れてしまうヤツが多いように感じるのですが、カンモンハタはあまり動じず、ジーっと様子を窺っていることが多い気がします。独特なアミメ模様が目を引くお魚です。揺れる水面の影に似せているのかな。
さらに沖側へ泳いでいると、色鮮やかなお魚が視界へと現れました。
 
写真 2 トゲチョウチョウウオ(Chaetodon auriga)とホンソメワケベラ(Labroides dimidiatus

 

元気な黄色に平たい体、ひと目でチョウチョウウオの仲間だとわかります。ナナメの縞模様に背びれの後端に黒い丸ポチ、トゲチョウチョウウオというお魚です。
そして一緒に写っている細長いお魚、きれいな青色に黒い縦すじ。ホンソメワケベラというお魚。知っている人も多いかもしれません。ほかのお魚の体表をつついて寄生虫などを食べ、お掃除することで有名なお魚です。今回もお掃除シーンに出会えました。


写真 3 お掃除中

 

お掃除される側は大人しく、されるがままになる…らしいのですが、私が今回出会ったこの子たちは、齧りどころが悪かったのか時々トゲチョウチョウウオに追い掛け回されていました。痛かったのかな。
また、ホンソメワケベラのそっくりさんに「ニセクロスジギンポ(Aspidontus taeniatus)」というお魚がいます。この子はお掃除のふりをして近付き、体表を齧り取って逃げちゃうヤツ。賢い生き方というか、知恵が回るというか。

今回出会ったお魚たちは、どれも日本(特に西日本の太平洋側)で比較的メジャーにみられるお魚たちです。とはいえ生きて動いている実物をその目で見るのはとても面白く貴重な経験になると思います。この一夏の思い出に、あなたも自然観察へ出かけてみてはいかがでしょうか。

 

担当:鈴木


小笠原の酉と言えば part

以前本ブログで酉年に合わせてアカガシラカラスバトを紹介させていただきました。今回、酉年はとうに過ぎていますが、せっかくなので小笠原の固有鳥類であるメグロ Apalopteron familiare を紹介したいと思います。

 

メグロ Apalopteron familiare

 

この鳥は、現在では小笠原諸島母島列島にのみ生息が確認されている日本固有種で、スズメ目メジロ科メグロ属に分類される鳥類です。この種の分類については紆余曲折有り、かつてはヒヨドリ科、チメドリ科、英名「Bonin honeyeater」からも察せられるミツスイ科等に分類されていましたが、近年のDNA解析からメジロ科(最近縁種はマリアナ諸島のオウゴンメジロ Cleptornis marchei)に分類されることとなりました。まさに白黒はっきりついたわけですね!なお、1977年には特別天然記念物に、1993年には国内希少野生動植物種に指定されています。

 

さて、この鳥、母島に行けば割と苦労せず確認出来るのですが、現在は小笠原諸島のうち、母島・向島・妹島の3島でしか確認できません。戦前では聟島列島でも亜種が確認されていたようです。

はて、では間に位置する父島は…?

 

どうやら、存在していたらしいのです!

時をさかのぼること約200年、1828年に本種の記載者ハインリヒ・フォン・キットリッツ(Heinrich von Kittlitz)が父島で確認したことを示す文献が残っていたようです。残念ながら、その後何かしらの要因で絶滅してしまい、今となっては父島で見ることはかなわなくなってしまいました…。

 

また、この鳥のもう一つの面白い点が、島間での移動をほとんど行わないということです。

現在確認できている母島・向島・妹島のメグロの遺伝子や形態を比較したところ、各島ごとにDNA構成に大きな違いが見られ、一部ではくちばしの形が異なっているなど、形態的な違いも確認されているようです。まさに日本における“ダーウィンフィンチ”ですね。

 

現在はコロナ禍でもあり容易に訪れることはできませんが、いずれ事態が終息した暁には母島を訪ね、ぜひ彼らを観察してみてください。ちょこまかと動く姿はなかなかに愛らしいですよ。

 

ガードケーブルに乗るメグロ

 

担当:芦澤

 

参考文献

シュプリンガー マークS.,樋口 広芳,上田 恵介,ミントン ジェイソン,シブレイ チャールズG.1995.メグロがメジロ類の1種であることを示す分子生物学的証拠.山階鳥類研究所研究報告 27(2):66-77

鈴木 惟司,森岡 弘之.2005.小笠原諸島父島におけるメグロの分布と絶滅.山階鳥類学雑誌37(1):45-49

Kazuto KAWAKAMI,Sachiko HARADA,Tadashi SUZUKI and Hiroyoshi HIGUCHI.2008. Genetic and morphological differences among populations of the Bonin Islands White-eye in Japan.Zoological Science 25.


忍法・変わり身の術

 皆さんはここ小笠原諸島に奇妙なヘビが生息していることをご存じでしょうか、、、?

これはブラーミニメクラヘビ(Ramphotyphlops braminus)という種で、ブラーミニミミズヘビという名でも知られています。

ヘビとしては最小のグループ(全長15〜20冂度)に属し、アリ類、シロアリ類や小型の土壌動物を食べています。過去の記事で単為生殖により子孫を残すオガサワラヤモリについて紹介されました(http://ogasawara.jwrc.or.jp/?eid=90)が、今回はその外伝バージョンです。

 

本種は元々小笠原諸島に生息しておらず、持ち込まれた植物の根のまわりにある土壌に紛れ込んで侵入した可能性が高いようです。オガサワラヤモリと同様に単為生殖により子孫を増やすことが知られており、メスのみの存在が確認されています。小笠原諸島のような海洋島ではその生存戦略が優位に働いたことでしょう。

 

土中を移動しながら生活しているため普段は滅多に目にすることがなく、不意に耕作地で見つけたとしても、名前の通り本当にミミズと間違えてしまいそうです。本人達にその気はないかもしれませんが、私自身も本種を探しているときに、ミミズをこのヘビと間違えて何度かがっかりした経験があります。

※参考画像(ミミズ)

 

もし本種を見かけたら、じっくりと観察してみてください。

小さなウロコや目が確認できて、しっかりヘビしていますよ。

 

担当:小山田


ボニン・天使の歌

 2020年2月、私は父島を出港するおがさわら丸の上にいた。墨田区にある錦糸町本部勤務の私は外来ネズミ類の調査に赴くためによくこの船に乗る。入社2年目になって小笠原諸島の業務に携わっているが、この1年で5往復目である。しかし、この時は今までと違っていた。いつも通り、見送り船が、盛大にお見送りをしてくれる。

 

 そんな中、私は遠くの方を見ていた。すると突然、水面から巨大な何かが飛び出してきて、しぶきをあげて横たえるように水面へと沈んでいく。ザトウクジラMegaptera novaeangliaeだ。我々と同じ哺乳類であるが、胸鰭(我々の体では上腕から指先にあたる)をひとかきするだけで、大きな白波が立つ。とてつもないスケールだ。

 

 すぐさま一眼レフカメラのファインダー越しに待ち構える。是非ともその姿を収めたい。しかし、現実はそうはいかない。彼らは実に神出鬼没だ。潮を吹いたのが見え、「あそこにいる!」と思って待ち構えても、数秒の間に水中を移動し、数百メートル先に顔を出す。ファインダーで捉える頃には彼らが横たえた痕跡が残るのみである。結局撮れたのはかすかにしぶきが残る情けない写真であった。

父島沖、おがさわら丸から筆者が撮影

 

 ところで、彼らは繁殖のために、この季節の小笠原諸島近海に訪れる。私が目にした行動はブリーチングと呼ばれ、ザトウクジラなどの鯨類でみられる。その大胆なふるまいの真意は実はよくわかっていない。体表についた寄生虫の除去?繁殖相手へのアピール?クジラを狙う捕食者(シャチ)への牽制?それともただ遊んでいるだけなのか?いずれにしてもこれまでに科学的な検証はされていない。なんとも神秘的で、探求心と想像力を刺激される。それもまた彼らの魅力である。

ザトウクジラにはユニークで魅力的な一面がほかにもある。彼らは素晴らしい歌うたいでもあるのだ。繁殖地でしか聞かれないことや、成熟した雄でのみ確認されていることから、多くの鯨類、あるいは鳥類がそうであるように繁殖相手やほかのオスへのアピールのために歌うと考えられている(Payne and McVay 1971)。しかし、その歌はほかの動物と比べても異質である。まさに我々が歌う“歌”のように、段階的で複雑なのだ。

 

 Payne and McVay (1971)によれば、ザトウクジラの歌には連続した鳴音の最小単位“ユニット”があり、それが、いくつか典型的パターンにより繰り返される“フレーズ”となる。類似したフレーズの繰り返しで“テーマ”が構成され、その長さは数分からときに数時間にもおよぶという。しかも、人間の“歌”のように地域によって文化があるのだ。即ち、同じ地域で歌われる歌は似通っており、異なる海洋では歌の構造が違っている(前田 2002)。さらに、その歌にも年次変化があり、翌年には同じ個体群の間で別の歌が歌われる。まるでポップミュージックの流行り廃りのようだ。

 

 これらの事象は、彼らの歌が個体間で交流しあい、影響しあっていることを示唆している。一方、小笠原海域と沖縄海域でみられる各個体群間には、歌の類似性がみられ、これらは音響的に交流しあっていると考えられている(Maeda et al. 2000)。小笠原諸島と沖縄諸島との距離はおよそ1300劼砲發よぶが、彼らにしてみれば、文字通り泳いで行ける距離なのだろう。我々と同じ歌を歌う哺乳類という共通点はあるが、なんともスケールが違うではないか。

 

 余談であるが、この美しい歌はアメリカ航空宇宙局(NASA)によるボイジャー計画においてゴールデンレコード*の中に収録されている。クジラの歌を乗せたボイジャー1号、2号は今も太陽系外を航海し続けているが、遠い未来、遠く銀河の彼方の誰かのもとに届くのかもしれない。小笠原と沖縄どころの話ではない。

 

 

 なんだか、壮大な話になってしまった。東京と小笠原諸島間はたかが1000卍だが、次に彼らに会うときにはその歌を是非とも聴いてみたい。そんなことを考えているうちに船は小笠原諸島を離れ、太平洋の只中へ。ちっぽけな哺乳類は荒波の中、ひどい船酔いに苦しめられるのであった。

 

 

*ゴールデンレコードとは、アメリカ航空宇宙局(NASA)により1970年代に打ち上げられた無人探査機ボイジャー1号、2号に搭載された記録盤であり、太陽系外へと発射された。地球外知的生命体へ地球の情報を伝達するため、様々な国の挨拶や楽曲、動物の鳴き声等が録音されているほか、地球人の模式図などが刻まれている。平たく言えば、宇宙人に向けたタイムカプセルである。

 

参考文献

Payne, R. and McVay, S. 1971. Songs of Humpback whales. Science.173:585−597.

Maeda, H. Higashi, N. Uchida, S. Sato, F. Yamaguchi, M.Koido, T. and Takemmura, A.2000.Songs of Humpback whales in the Ryukyu and Bonin Regions. Mammal Study 25:59−73.

前田英雅. 2002. 沖縄海域におけるザトウクジラの鳴音の音響特性に関する研究. 長崎大学大学院2001年度博士論文.

 


忍法・影分身の術 其の二

過去の記事(http://ogasawara.jwrc.or.jp/?eid=85)でメスのみでクローン繁殖するヤモリ、オガサワラヤモリについて説明しましたが、今回はその第二弾となります。

 

オガサワラヤモリは全個体がメスで各々が自身のコピーを産んでいくため、理論上すべての個体が同一のクローンとなるはずです。

 

しかし!実は小笠原諸島には2種類のクローンが分布しているのです!!

見比べてみると明らかに背中の模様が違いますよね。

この記事では便宜上写真左をクローン1、右をクローン2と呼ぶことにします。

 

ヤモリ類はカメレオンと同様に体色が背景に併せて変化するのですが、斑紋の位置・大きさは変化しません。

クローン1は胴体背面に一対の斑紋が連続しているのに対し、クローン2では頭部と首の付け根および尾の付け根背面に黒い斑紋があるのが確認できます。これら斑紋の配置の違いからクローンを識別することができます(野外での識別は難しいですが…)。

 

また、親子判定にも利用されているアロザイム解析やマイクロサテライト解析と呼ばれる方法でDNAをクローン間で比較してみると、種内変異の域は出ませんが違いがみられることがわかっています(Yamashiro et al., 2000; Murakami et al., 2015)。それに加え、染色体数も異なっていることもいくつかの研究論文で報告されています(Yamashiro et al., 2000)。

 

さらに!クローン間で性格も異なっていることがわかっています!

端的に言えば、クローン1は餌場などを巡って激しく争う好戦的なタイプであり、

一方でクローン2は夜間も隠れている時間が長く、争いを好まない臆病なタイプであることがわかっています。

まとめると小笠原諸島に生息するオガサワラヤモリには2種類のクローンがいて、これらは形態的にも遺伝的にも生態的にも異なると考えられています。

これはもはや別の生き物といっても過言ではないでしょう。

 

また、小笠原と同じ海洋島として知られる大東諸島にはなんと17種類ものクローンが分布しています(Yamashiro et al., 2000)。これらについてもまた別の機会に紹介したいと思います。

 

さて、単為生殖をはじめとする無性的に増える生物の欠点として、遺伝的に単一になってしまうことが挙げられます。遺伝的に単一だと、当然病原菌などへの耐性も皆同じになるわけですから、環境の変化や病気の流行によって絶滅しやすいと考えられ、長期的にみると有性生殖種に比べて不利だと言われています。だからこそ多くの動物には性別なるものが存在するわけです。

 

しかし、オガサワラヤモリに様々な種類のクローンがいることを考えると、遺伝的多様性を高める何らかの手段を持っているように見えます。

だとしたら、「本当に生物にオスは必要なの?」と私も男ですが疑問に思ってしまいます。

 

ヤモリ一つとってみてもこんなにも不思議で神秘的。

やはり生き物の世界は底が見えませんね。

担当:村上

 

YAMASHIRO, S., TODA, M., AND OTA, H. 2000. Clonal composition of the parthenogenetic gecko, Lepidodactylus lugubris, at the northernmost extremity of its range. Zoological Science 17: 1013–1020.

 

MURAKAMI, Y., SUGAWARA, H., TAKAHASHI, H., AND HAYASHI, F. 2015. Population genetic structure and distribution patterns of sexual and asexual gecko species in the Ogasawara Islands. Ecological Research 30: 471–478


小笠原のオカヤドカリ紹介

ペット大国である日本は、犬、猫、鳥のみならず、ゾウガメやカエルといった爬虫両生類や、はたまた昆虫類の飼育が浸透している国ですが、今回は人気のペットの1つ、オカヤドカリについてご紹介します。

 

ヒロベソカタマイマイの殻を背負うムラサキオカヤドカリCoenobita purpureus(天然記念物)。日本に生息するオカヤドカリ属は全て国の天然記念物である。

 

 

分類学上、オカヤドカリ属に含まれる種を総称してオカヤドカリと呼んでいます。小笠原諸島においては6種が確認されており、よく見かけるのはムラサキオカヤドカリ、ナキオカヤドカリの2種です。

 

ヤドカリといえば、普段は海の中に暮らしていてあまり陸地に上がる印象はありませんが、オカヤドカリは主として陸上生活を送り、小笠原や南西諸島などの生息地では陸地で人の目に触れる機会も多いのです。

 

南島で目にするオカヤドカリは、絶滅種かつ天然記念物でもあるヒロベソカタマイマイの殻を利用することが多いため、天然記念物が天然記念物の殻を背負うという(何となく)満足度の高い見た目となっています。

 

左上:兄島はカタマイマイ属の殻がひときわ多い。

左下:父島にて、アフリカマイマイの殻を背負った大型のムラサキオカヤドカリ。

右上:時には人工物も利用する。

右下:交尾前ガードを行うオス個体。

 

 

夏の夜、メス個体は腹部に抱えた幼生を海に放出します。その際、交尾相手を探すオスも入り交じり、すさまじい集団となります。

 

繁殖期は昼間でも浜に集合していることがある。

 

 

そして放出された幼生は幼生期を海で過ごし、ゾエア→グラウコトエという段階を経て稚ヤドカリになり、再び陸に上陸するのです。

 

写真右:海中を漂うオカヤドカリ属の幼生(グラウコトエ)。

 

そういえば、冒頭で「人気のペット」と紹介しましたが、天然記念物であるオカヤドカリを捕獲しようものなら文化財保護法に抵触してしまいます。

 

一般に販売されているオカヤドカリは、特定の業者が国の許可を受けて捕獲しているものですので、ご安心ください…。

 

担当:小山田


忍法・影分身の術 其の一

皆さんはここ小笠原諸島に世にも奇妙なヤモリが生息していることをご存じでしょうか、、、?

これはオガサワラヤモリLepidodactylus lugubrisという種で、ヤモリ類としては小型(体長70〜80mm)で、昆虫や花の花粉などを食べます。

小笠原では人家の壁や森林、海岸と様々な場所で見つけることができます。

一見目立った特徴のないフツーのヤモリに見えますよね。

 

しかし、このオガサワラヤモリは全ての個体がメスで、かつクローンという大変不思議な生物です!!

 

つまりメスが交尾なしに卵を産み、そこから母親と遺伝的に全く同じクローンが生まれるわけです。

 

キリスト教の新約聖書によると、イエス・キリストは聖母マリアから処女懐胎によって誕生したと言い伝えられていますが、オガサワラヤモリはまさに同じことを当たり前のようにやってのけているわけです。

 

こういった繁殖様式のことを「単為生殖」(⇔両性生殖)と呼びます。

さて、このオガサワラヤモリは小笠原の名を冠してはいますが固有種でもなんでもなく、実は太平洋インド洋の島々を中心に広く分布しています!

物資などに紛れて人間によって運ばれたとも考えられますが、そういった記録のない地域や無人島にも分布を拡大させていることから、自然分散(流木に乗って流れ着いた、鳥によって運ばれた、など)によって拡がったとも言われています。

なぜこんなにも分布を拡げられたのか、、、?その秘密はやはり単為生殖にあると考えられています。

 

下の絵のように、一般的な両性生殖種が他の島や大陸に分布を拡げるには、多くの確率の低い行程が不可欠で、しかもそれらが何度も起こる必要があります。

いかに奇跡的な確率かおわかりいただけるかと思います。

 

一方で単為生殖種の場合は、子孫を残すのにオスも交尾も必要ないため、以下の行程だけでいいのです。

よって分布を拡げられる確率が両性生殖種に比べて格段に高いのです。

これはとんでもないアドバンテージです。

 

海洋島である小笠原諸島でオガサワラヤモリがたくさん見られるのもそのためなのでしょう。

 

他にも、オガサワラヤモリについて色々な興味深い事実が明らかになっています。

それらの紹介はまたの機会に!

 

担当:村上

 

参考文献

MURAKAMI, Y., SUGAWARA, H., TAKAHASHI, H., AND HAYASHI, F. 2015. Population genetic structure and distribution patterns of sexual and asexual gecko species in the Ogasawara Islands. Ecological Research 30: 471–478.

RADTKEY, R. R., DONNELLAN, S. C., FISHER, R. N., MORITZ, C., HANLEY, K. A., AND CASE, T. J. 1995. When species collide: the origin and spread of an asexual species of gecko. Proceedings of the Royal Society of London B 259: 145–152.

YAMASHIRO, S., TODA, M., AND OTA, H. 2000. Clonal composition of the parthenogenetic gecko, Lepidodactylus lugubris, at the northernmost extremity of its range. Zoological Science 17: 1013–1020.

 


甲の薬は乙の毒

危険生物が少ない小笠原諸島ですが、キョウチクトウ科植物やコハマジンチョウ、一部のハチ類、ムカデ類、クモ類、外来種のオオヒキガエルなど、毒をもつ生物もいくつか知られています。その中でも特に危険で、被害件数の多い生物が、このカミキリモドキです!

ランプムシやデンキムシとも呼ばれていたりしますよね。小笠原では夏の夜に家の電灯や自動販売機などに集まっているのをよく見かけます。

カミキリモドキ科Oedemeridaeは、その名のとおりカミキリムシによく似ていますが、分類学上は互いに大きく異なります。小笠原諸島にはオガサワラハイイロカミキリモドキとマツムラカミキリモドキの2種が分布しており、前者は小笠原固有亜種になります。体長はいずれも10〜15mm程度で、花粉食で花に集まります。

 

この一見ただの小さな昆虫が、体内にカンタリジンという血管刺激物質を含む揮発性の猛毒を持っていて、かつてはこの成分が暗殺に使われたこともあるんだとか!実際、カミキリモドキが身体に止まった際に知らずに潰したり刺激したりすると、毒液を分泌します。毒に触れたまま放っておくと、数時間で火傷に似た痛みと水ぶくれができ、やがてこれがカサブタになり、かゆみを伴います。完全な治癒までにはなんと2週間程度もかかるのです(症状には個人差があります)!

小笠原諸島の多くの昆虫たちが、グリーンアノールをはじめとする外来種によって数を減らしている中、カミキリモドキたちはこのカンタリジンのおかげで生き残ってきたのかもしれませんね。

しかしながら、カミキリモドキは自身の防御のためだけにこの毒を使うわけではなく、恋人へのプレゼントとしても利用しているのです!カミキリモドキは交尾の際に、オスからメスへカンタリジンが精子とともに渡され、メスは受け取った毒を自分の卵を守るための防御物質として利用しているのです。なかなかキザですよね!このように求愛や交尾の際にオスがメスに贈り物をすることを「婚姻贈呈」といいます。

さらに!他の生物種がカンタリジンを利用しているとの報告もあります!

ヌカカ科のヒラタヌカカ属は、主にカミキリモドキの血液を餌とすることが知られています。そのため、カミキリモドキが出すカンタリジンの匂いを辿って餌の居場所を特定していると考えられています。実際に、小笠原諸島に分布するAtrichopogon snyderiというヌカカがカンタリジンに誘引されることが報告されています。

そのほかにも、いくつかの科の一部の種がカンタリジンに誘引されることが知られており、誘引される理由も以下のように様々です。

  • アリモドキ科・アカハネムシ科:防御物質獲得のため
  • アリ科・テントウムシダマシ科・コガネムシ科:利用する餌の匂いがカンタリジンと似ているため
  • トゲアカザトウムシ科:カンタリジン(もしくはその類似物質)を集合フェロモンとして利用しているため

 

いかがでしたでしょうか。

毒を嫌がるものもいれば、逆に利用するものもいるとは面白いですよね。

嫌われがちなものでも、色々な角度から見てみると、知らなかった素敵な一面が見えてくるかもしれません。

 

村上

 

参考文献

  • Borkent A, Rocha-Filho LC (2006) First record of female adult Atrichopogon Kieffer (Diptera: Ceratopogonidae) biting in the Neotropical Regeon. Proceedings of the Entomological Society of Washington, 108: 998–1001.
  • Hashimoto K, Hayashi F (2014) Cantharidin world in nature: a concealed arthropod assemblage with interactions via the terpenoid cantharidin. Entomological Science, 17: 388–395.
  • 橋本晃生(2015)カンタリジンを誘引剤として用いた特異な昆虫類の採集法.昆虫と自然,50(1): 12–14.
  • Hashimoto K, Hayashi F (2016) Cantharidin world on islands: species diversity of canthariphilous arthropods in the Izu–Ogasawara Arc. Entomological Science, 19: 432–439.
  • Hashimoto K, Sugawara H, Hayashi F (2016) Sclerotised spines in the female bursa associated with male’s spermatophore production in cantharidin-producing false blister beetles. Journal of Insect Physiology, 93: 18–27.
  • Horiuchi K, Hashimoto K, Hayashi F (2018) Cantharidin world in air: spatiotemporal distributions of flying canthariphilous insects in the forest interior. Entomological Science, 21: 306–314.


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