父島の身近な黒いアリたち
皆さんはじめまして、5月から小笠原で暮らしている久末(ひさすえ)です。
これまでに自然研ブログを書いている先輩方からはいろいろな生きものへの愛が記事から伝わってきますが、私は特に昆虫が好きで、中でもアリやハチの仲間が大好きです。小笠原に来てもいろいろな昆虫との出会いがあり、休日はほとんど昆虫の観察に興じています。特に好きなのが、アリの行列を眺めることです。仲間と協力して餌を運ぶ姿に感心したり、一匹の動きをずーっと追いかけたり、指でちょっと行列を遮ってみたり……誰もが一度はやってみたことがあるようなことを、私は今でもしています。昔と一つ違うのは、アリを見ると、なんていう名前のアリか、気になって調べることでしょうか。私は、見かけたアリが何者なのか、そのアリがどんな場所に棲んでいて、何をして過ごしているのか、気になってたまりません。
ブログをご覧になっている皆さんは、日本には何種のアリが生息しているかご存じでしょうか?実は300種程度いると言われています(寺山ほか,2014)。しかし、その内の実に1/4が人間の活動によって日本に連れてこられた外来種だと言われています(寺山ほか,2014)。
小笠原は特に外来種が多く、なんと全体の53%、2種に1種は外来種だと言われています(寺山・森,2014)。日本で最も外来アリの多い場所が、ここ小笠原なのです。しかもこれは父島、母島、兄島、弟島…など小笠原群島全体の話で、父島に住んでいる人、おがさわら丸でやってきた人が身近で見かけるアリのほぼ100%が外来種であるといっても過言ではありません。
今回は、そんな身近なアリ(=外来アリ)のうち、まさにアリ然とした黒いアリたちを紹介します。
1.アシジロヒラフシアリ Technomyrmex brunneus Forel, 1895
体長2–3 mm。天気のいい日に父島の山を歩いてこのアリを見かけないことはありません。艶消しで少し灰色がかった少し短足のアリが木の幹に行列を作っていたら、恐らくこのアリでしょう。平地から山地まで分布しますが、外来アリに港湾や海浜の乾燥した環境を好む種が多い一方、意外にも海の近くでは見かけません(山室ほか,2020)。遠目では黒っぽいですが、よく見ると足先が白くなっていておしゃれです。名前の”アシジロ(脚白)”は、ここから来ています。アカギの葉上でカイガラムシの出した蜜を舐めたり、街で捨てられた空き缶やペットボトルに残ったジュースに群がる姿をよく目にします。落ちたビロウの葉裏に集まって葉が真っ黒になったり、置いたリュックに行列が出来てアリだらけになる様子は、あまり気分のよいものではありません。父島ではこの有様ですが、母島列島にはまだ侵入していません(寺山ほか,2021)。つまむと杏仁豆腐の匂いがします。本当です。
2.ケブカアメイロアリ Nylanderia amia (Forel, 1913)
体長2.5–3.5 mm。平地から山地まで広く分布し、海岸でも多く見られます。アシジロヒラフシアリより光沢が強く全身にツヤがあります。よく見ると黒くて太い毛がたくさん生えていて、これが”ケブカ(毛深)”の由来と考えられます。アシジロヒラフシアリより素早く動きますが、後述のヒゲナガアメイロアリよりはゆっくり歩きます。どこをとってもこれといった特徴のないアリですが、言い換えるとオールラウンダーなのでどこに行っても見つかります。
3.ヒゲナガアメイロアリ Paratrechina longicornis (Latreille, 1802)
体長2.5–3 mm。主に平地に分布し、海岸でも見られますが自然が豊かな場所では少ないです。”ヒゲナガ(髭長)”とは触角が長いことから付けられていると思われますが、脚も非常に長く八頭身スタイルです。動きは物凄く速く、日本に棲むアリでトップクラスです。急いでいるときのヒゲナガアメイロアリは、姿を目で捉えることができないほどです。このアリが生息環境で多数派になることはあまり多くありませんが、以前モモタマナの根元に(たぶん)数万を超えるおびただしい数がいるのを見ました。
今回紹介した3種は遠目には皆同じ(そもそも遠くから見たらアリはみんな点ですが)に見えるかもしれませんが、近づいて体型や動きを見ると少しずつ違うことに気付くことができると思います。以下に3種の見た目のイメージを並べてみたので、もし観察して迷ったときはこれを思い出してみてください。ちなみに左から右に向かって歩くのが速くなります。私もまだパッと見ではアシジロヒラフシアリとケブカアメイロアリを見間違えることもしばしばあるので、皆さんと一緒に覚えていけたらと思います。
父島で身近な黒いアリの見た目のイメージ
引用文献
寺山 守・久保田敏・江口克之(2014)日本産アリ類図鑑.278 pp.朝倉書店.東京.
寺山 守・森 英章(2014)小笠原諸島のアリ:外来種を中心に.昆虫と自然,49(9): 12–16.
寺山 守・ 砂村栄力・藤巻良太・小野高志・森 英章・戸田光彦・江口克之(2021)侵略的外来種アシジロヒラフシアリ Technomyrmex brunneus(膜翅目:アリ科)の防除実施上の諸問題.蟻,(42): 17–36.
山室一樹・金井賢一・福元しげ子・山根正気(2020)奄美大島におけるアシジロヒラフシアリ Technomyrmex brunneus Forel の分布.Nature of Kagoshima, 47: 169–172.
担当:久末