小笠原寄席(2)「カラスとハト」

えー、毎度小笠原寄席においでいただき、ありがとうございます。さて、本日のお題は、「カラスとハト」についてということで、しばらくの辛抱をお願いいたします。
まあ、カラスとハトといえば、皆さんには大変なじみがある鳥だと思います。ハトが豆鉄砲を食らったような、とか、カラスが鳴くからかーえろ、などと日常でも、よく使われます。ところが、今回は、このカラスとハトがくっついちゃたというおはなしです。と申しましても、合体ロボみたいに、カラスとハトがくっついた訳ではありませんで、名前がくっついちゃったんですね。

「大家さんいますか」
「これは、源さん、お上がんなさい。どうしました、店賃でも払いにきましたか」
「冗談じゃない、どこを間違って、自分で店賃払いにくる店子がいます。それほど、あっしは馬鹿じゃない」
「何をいってるんだい、店子が店賃を納めるのは常識というもんだよ」
「そんな常識が通じるほど、この長屋は甘くないんで」
「やれやれ、いばられちゃしょうがないね。それでは、どんな用事なんだい」
「それなんですよ。ほら、ニュースを見ていたら、小笠原の島々では、昔に比べてカラスとハトが減ってしまったということですが、本当ですか」
「ああ、それは、カラスとハトではなく、カラスバトのことでしょう。小笠原諸島には、カラスバトの仲間で、アカガシラカラスバトという鳥が住んでいるんだが、絶滅するんじゃないかと心配されているんだ」
「へー、いったいそのカラスバトっていうのは、ハトなんですか、カラスなんですか」
「これは、カラスみたいに黒っぽくて大きなハトなんだが、まあ、カラスみたいなハトということで、カラスバトと呼んだんだな」
「へー、なんだかまぎらわしいね。ところで、なんでまた、そんなに数が減っちゃったんです。おいしそうなんで、焼き鳥にされちゃったんですか」
「まあ、人間が食べちゃった訳じゃないんだが、これには色々な原因があると言われているんだ。1つの大きな原因としては、そもそも小笠原諸島という離れ島に住んでいることがある」
「やっぱり寂しくって、世をはかなんだんですかね」
「そうじゃない。実は、アカガシラカラスバトというのは、カラスバトの亜種とされており、カラスバト自体は、四国や九州、沖縄などにも住んでいる。しかし、いくら空を飛べるといっても、かなり離れているので、それらの島の間を飛び回ることはあまりないんだ。特に、小笠原の島々は、大陸から遠くはなれているため、同じ仲間がやってくることがほとんどない。だから、大昔、たまたまやってきたカラスバトが、小笠原だけで繁殖を重ねるうちに、頭の部分が赤い特別なカラスバトになってしまっている。それで小笠原だけにいる固有亜種ということで、天然記念物にも指定され、アカガシラカラスバトという名前で呼ばれる様になったというわけだ」
「頭を赤く染めてるって、やっぱりヤンキーなんですかね」
「そうじゃないが、小さな島では、もともとその数が少ないために、遺伝的な変異が起こった場合に定着して広がる可能性が大きいんだ。これは、大きなプールに数滴赤い水を入れても、すぐに広がって薄まってしまうけど、小さなコップの中に入れた場合は、コップ全体が、すぐに赤くなってしまう現象と似ている。だから、小笠原にいるアカガシラカラスバトが絶滅してしまうと、他には住んでいないので、この世からいなくなってしまうことになる」
「なるほど」
「それに小笠原のような大陸から離れた小さな島に住んでいる生き物は、害敵や競争相手がいないので、のんびりしている。まあ、坊ちゃん育ちのどら息子みたいなもんだね」
「ははー。だから頭染めたんだね」
「ヤンキーにこだわるね。それが、人間が住む様になってから、ネズミや猫、ヤギなどのこれまで島にはいなかった生き物が入ってきた。のんびり育っているアカガシラカラスバトは、地上に巣を作り、地上で餌を探すことが多いんだが、これは、地上を歩き回る肉食動物がいないから暮らしていけたんだ」
「そりゃそうだ、田舎者がいきなり新宿4丁目の盛り場に放り出されたようなもんだものね」
「同じような例では、沖縄のヤンバルクイナやノグチゲラなどでも当てはまる。ヤンバルクイナは、空を飛べないし、ノグチゲラは、キツツキのくせに、地上で餌をとることが多いんだそうだ。これも、やはり肉食動物がほとんどいなかったからだと言われている。そこに、肉食者のマングースが入ってきたもんだから、大変なことになった。いまでは、マングース退治に膨大なお金と人手をかけている」
「へー」
「さらに、アカガシラカラスバトが、もともと餌をとっていた森も外来種の樹木にかわったり、ネズミに餌を奪われたりして餌も不足しがちなんだね。それに、ノネコに襲われたりしていたんだよね。しかし、最近では、ハトの住んでいるところにノヤギやノネコが入り込まないようにしたり、捕まえたりすることで、安心して餌をとれるようになり、かなり回復しつつあるそうだよ」
「へー、そいつは良かった。やっぱり、カラスバトだけに、いろいろクロウするんですね」
「いやー、ハトだけに、ピジョンが大事なんです」
お後がよろしいようで。

地上で餌をとることが多い、アカガシラカラスバト

 

挿絵・文:福山研二(自然環境研究センター客員研究員)


小笠原寄席(1)「世界遺産」

本日は、小笠原寄席においでいただき、誠にありがとうございます。これから、不定期に、小笠原諸島に関連するお話をして参りたいと思っておりますので、ごひいきにお願いいたします。


「ご隠居さん、いますか」
「おお、これは八さん、お上がんなさい」
「はい、いただきます」
「何を言ってるんだい、食べ物をお上がりと言ってるんじゃないよ、こっちへ上がんなさいと言ってるんだ」
「そんならはじめからそういやいいじゃないか。どっこいしょっと」
「それで何か用かい」
「そうなんですよ、ご隠居は物知りで知らないことはないって評判なんでね、ちょっと聞きたいことがあったんですよ」
「そうかい、まあたいていのことは知ってるよ」
「それじゃ、家のかかあのへそくりの場所知ってますか」
「そんなものはわかりゃしないよ」
「まあ、それは冗談ですが、最近セカイイサンがどうたらこうたらって話を聞いたんですが、胃散なんかほしがるなんて、二日酔いかなんかになったんですか」
「その胃散じゃないよ、世界遺産と言うのは、ユネスコに事務局がある世界遺産委員会というものが定めたもので、後世に残すべき優れた自然や景観、文化などのことさ。日本でも、白神山地や屋久島なんかが真っ先に登録され、最近では、小笠原諸島が登録されたな」
「へー、小笠原さんは遺産がたんまり転がり込んで、大もうけって訳ですか」
「遺産と言っても、お金ではないんだ」
「じゃ、何が転がり込んだんです」
「小笠原諸島は、これまで大陸とは陸続きになったことがない海洋島で、大陸や大きな島からも千キロ以上も離れており、たどり着いた生き物が独自の進化を遂げつつあると言うのが、評価されたんだ。世界遺産と言うのは、小笠原の人がもらうのではなく、世界中の人がもらうということさ」
「えー、それじゃ、逆に損じゃないですか。なんでわざわざそんなことしたんです」
「まあ、世界が認めたすばらしい自然だと言うことで、世界中の人がやってくる様になり、国や都などもそれなりの支援をしてくれる訳さ」
「広告の看板みたいなもんですね」
「これも小笠原が海洋島だったことによるんだ」
「えー、その海洋島ってのはいったいなんです」
「さっきも言ったけど、海洋島と言うのは、島ができてから一度も大陸とつながったことがない島のことなんだ。」
「そんなー、島がくっついたり離れたりするもんですか、最近の芸能界じゃあるまいし」
「まあ、確かに人間の短い一生からすれば、島がすいすいと動いて大陸につながるなんて事はないんだが、数万年数十万年ともなると、海面が低くなってそれまで海だったところが干上がって、陸続きになったりするんだ。特に日本列島の様に大陸に近い島は、大陸棚と言われる浅い海の上にできているので、少し海面が下がっただけで陸続きになった訳だ。八さんが住んでるこの東京だって、大昔には大陸と陸続きになっていたらしい」
「へー、それじゃ昔は歩いてパリにだっていけたんだ」
「まあ、当時はパリなんてないけど、そのとおりだよ。それが証拠には、大陸にしかいないゾウの仲間も日本で化石になって見つかっている」
「ははーん、ゾウも落語聞きにきたかったんですね。そんじゃ、小笠原だってくっついたんじゃないんですか」
「実は、海面が下がると言っても100mとかせいぜい200mくらいなので、1000m以上も深い海を隔てている上に、1000kmも陸からはなれているので、つながることはない。まさに絶海の孤島、海洋島というわけさ」
「へー、ちょっと寂しいですね」
「まあ、その海洋島だからこそ、世界遺産としての価値が認められたって事だね」
「どうりで、カイヨウだけにイサンが効くでしょう」

お後がよろしいようで。

世界遺産の島小笠原父島(小港海岸)

挿絵・文:福山研二(自然環境研究センター客員研究員)


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